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2007年9月26日

イレブン・ストーリーズⅢ葵とハル

何かを考えるときに私は両の手のひらを眺める。
どこかつるっとしていて、指の長さに比べると手のひらの割合が大きい。
父親譲りの「器用貧乏な手」。

手相は薄くて、必要な限りにしか線がなく、それも薄い。

手のひらにふわりとなにか、軽くて輝いていて・・・雪の結晶のようなものが降ってくる様だ。

一瞬の無心の後に包み込むような想いが徐々に一まとまりになっていく。
こういう時間が好きだった。
悩むことも、時には楽しいもので、私は手のひらを眺めて過ごす時間を愛している。

幼いころから、これといったコンプレックスがなかった。
言い出せばきりがないけど、他者であればそれに値するものはたくさんある気もするけど。
背が低く、常に前から一番という長い年月が続いたことや、成績が中の中であること。
家庭の環境は特に悪くはなかったが、働き者の母が常に父の会社に介入していて
小学校も高学年になるころには、下校時刻にも帰宅しなくなり一人ですごす午後が長かったことも。

私はなぜか茫漠としている子供で、転校によるいじめなども特に気にしなかったので
いじめている本人たちを呆れさせるほどだった。
それが目的だったというのではなく、とにかく時の流れを眺めているのが好きだった。
この状況が苦しいとか楽しいとか、そんなことは記憶にしかならないとわかった風でいた。

特別辛いという思いを、精神的に成熟した年齢に達するまで経験しなかったのは私にとって幸せなことだ。
現実的に辛いことがあっても、家庭内で解決することができた。
それくらい、私は恵まれた環境で育ったと思う。

ハルに出会ったのは中学一年の時だった。

不思議だった。
それまで出逢ったことのない雰囲気で、自由奔放な発言や個性的な容姿と華奢な身体が
少女なのか成熟したメスなのか理解に困る。

偶然にも進学した高校でも同じクラスになり、私は心の中でだけハルに強く惹かれていた。

憧れなんだと確信したのは、私が始めて好きになった男の子がハルのことを
「クラスで一番かわいい」と言った事でだった。
嫉妬心が沸くわけでもなく、好きなアーティストが偶然同じだったときのような感動。

「私も!」

と、思わず喜んだ私を彼は笑ったけど、私は心底喜んでいた。
今思えば、やっぱりおかしいという気もするけど、思い出してもうれしい発言だ。

もともとコンプレックスもなければ、執着するということもなかった私だけど
彼のことは好きだったし、彼にも好きになってもらいたいと思っていたはず。
それでもハルは特別で、もしも彼がハルを本気で好きになったとしても私は許したと思う。

そんなハルは、中学時代に輪をかけて自由だった。
自由に見えた。そう振舞っていたともいえる。
教室以外で接点を持たない私たちだったけど、ハルは誰かがいる場所ではどこにいても変わらない様に見えた。

ただ、その自由さは、羽があるように柔らかく軽やかというのではなくて、
足枷のついた裸体のようなものだった。
地よりも深い場所で、そこにいることを忘れるために重い身体に鞭打つような自由。
私が柔らかく暖かい快適な檻の中で、行動範囲を限られた自由を持っていたなら
対してハルは、壮大な闇の中で光を発しながらどこまでも黒い物を集めて回るような。
互いに反抗心はなく、自分自身の中にだけそれを持ち合わせている不自由な自由だった。

相反する不自由と自由に惹かれていたのは間違いない。

ハルの世界に興味を深く示してはいたが、私は立ち入ろうと思ったことは一度もない。
黒いものを隠そうともしないハルが好きだったし、ハルの一から十を理解しようとした。
そして、それに喜びや楽しみを見出していたのだ。

私たちはそれぞれ特定の友達がいて、中学のなじみという形が三年間続き
親友という形をとることは学生時代にはなかった。

運命はすでに始まっていたが、知らなかった。

そして、繰り返される偶然。

私たちは何度も出逢った。

電車で。駅で。路で。そして、今につながる路をゆっくりとたどっていった。

もう、お互いが新しい苗字になってからのことだ。
私たちは抱えきれないものが形となり、未来になり、過去を反芻することでしか解決しないまでになって。
不明瞭な形を縁取り、私たちは多数決に完全に負けて。
生きる場所を模索しながら、「普通」に翻弄されながら、不良であることを自覚した大人だった。

そして、母になるという新しい場面で再会し急速に寄り添ったのだ。

私は立ち止まり、ハルは立ち尽くした。

手のひらの中できらきらと輝く想い。
一筋の糸が振ってきて、私の感情が静まっていく。

これから、ハルと私におきたことを書いていく。
「違う」という中で育った子供が大人になり、親になって「普通」という言葉に収まろうと
必死にもがいた結果を。

私は立ち尽くし、ハルは立ち止まった。

私たちは、相反する中で闇を受け入れたのだ。

投稿者 さゆりん : 2007年9月26日 23:08

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